介護と孫育てを両立する心身のケア:自分を大切にする習慣作りの手引き
はじめに
多世代が共に暮らす家庭では、親の介護と孫育てを同時に担う方が多くいらっしゃいます。こうした状況は、家族に多くの喜びと賑やかさをもたらす一方で、介護と育児の両立という大きな責任が、ご自身の心身に負担をかける可能性もあります。家族全員が笑顔で過ごすためには、まず介護と育児の担い手であるご自身が、心身ともに健やかであることが不可欠です。
この記事では、介護と孫育てを両立しながら、ご自身の心と体を大切にするための具体的な習慣作りと、利用できるサポートについてご紹介します。自分を労わる時間を作り、健やかな毎日を送るためのヒントとしてご活用ください。
介護と孫育てにおける心身の負担
長期間にわたる介護と育児の同時進行は、知らず知らずのうちに心身に大きな負担をかけます。介護される親御様の状態、成長期の孫の活発さ、そしてご自身の年齢や体力、社会環境の変化など、様々な要因が複合的に影響し、ストレスが蓄積されやすい状況にある方も少なくないでしょう。
自分のことは後回しになりがちで、「休むことへの罪悪感」を感じる方もいらっしゃいます。しかし、心身の健康を損なってしまうと、介護や育児の質が低下するだけでなく、ご自身の生活そのものにも支障をきたしかねません。ご自身のケアは、家族全体が穏やかに暮らすための重要な一歩であると認識することが大切です。
自分を大切にするための具体的な習慣
多忙な日々の中でも実践できる、心身の健康を保つための具体的な習慣をご紹介します。
1. 身体のケアを意識する
- 質の良い睡眠の確保: 短時間でも質の良い睡眠を取ることが重要です。寝る前のスマートフォンやパソコンの使用を控え、リラックスできる環境を整えましょう。必要であれば、家族に協力してもらい、夜間の見守りや家事の分担をお願いすることも検討してください。
- 軽い運動の継続: 毎日数分でも良いので、ストレッチ、散歩、ラジオ体操などを取り入れてみましょう。体を動かすことで気分転換になり、血行促進にもつながります。孫と一緒に公園で遊ぶ時間を、ご自身の運動時間と捉えることもできます。
- バランスの取れた食事: 忙しい中でも、三食を規則正しく摂り、栄養バランスに配慮した食事を心がけてください。作り置きや宅配サービスなども賢く活用し、食事の準備の負担を軽減することも一案です。
2. 心のゆとりを作る工夫
- 「何もしない時間」を意識的に設ける: たとえ15分でも、誰のことも気にせず、自分の好きなことだけをする時間を作りましょう。好きな音楽を聴く、温かいお茶を飲む、窓の外を眺めるなど、心が落ち着く時間を持つことが大切です。
- 趣味や楽しみを持つ: 介護や育児から一時的に離れ、集中できる趣味を持つことは、大きなストレス解消につながります。短時間でできる読書、手芸、ガーデニングなど、ご自身の興味に合うものを見つけてみましょう。
- 感情を記録する: 日記やメモ帳に、その日に感じたこと、嬉しかったこと、困ったことなどを書き出す習慣は、自分の感情を客観的に見つめ、心の整理をするのに役立ちます。
3. 時間管理と休息の優先
- 完璧を目指しすぎない: 家事や介護、育児のすべてを完璧にこなそうとすると、心身に大きな負担がかかります。「これで十分」と割り切る勇気も必要です。
- 休息を優先する: 「疲れたら休む」というシンプルなルールをご自身に課してください。休憩は決して手抜きではなく、明日への活力と考えることが重要です。短時間の昼寝や、椅子に座って目を閉じるだけでも、心身のリフレッシュになります。
- 頼ることをためらわない: 家族、友人、地域の支援サービスなど、頼れる存在には積極的に頼りましょう。具体的なタスク(買い物、孫の送迎など)を依頼するだけでなく、話を聞いてもらうだけでも、心の負担は軽くなります。
外部サポートの賢い活用と多世代の連携
ご自身の健康維持のためには、外部のサポートを賢く活用し、家族内でオープンなコミュニケーションを図ることが非常に重要です。
- 介護サービス・地域支援の活用: 介護保険サービスはもちろんのこと、地域のボランティアやNPO団体が提供するサービスなど、様々な支援があります。既存の記事「介護保険サービスを賢く使いこなす」も参考に、ご自身が休む時間を作るためのサービスを積極的に利用してください。例えば、ショートステイやデイサービスなどを活用し、定期的に休息日を設けることは有効な手段です。
- 家族との連携と役割分担: ご自身の心身の状態や困っていることを、配偶者、お子様、介護される親御様(可能な範囲で)に穏やかに伝え、理解と協力を求めましょう。家族内で家事や育児、介護の役割分担を見直すことで、特定の人物に負担が集中するのを避けることができます。
- 専門家への相談: ストレスが蓄積し、ご自身での対処が難しいと感じる場合は、地域の保健センターや精神科、心療内科の専門家に相談することも大切です。専門家は、心の状態を評価し、適切なアドバイスやサポートを提供してくれます。
事例:Aさんのセルフケア習慣
70代のAさんは、90代の母親の介護と、小学生の孫の育児を担っています。以前は「自分が頑張らなければ」と無理をしがちでしたが、体調を崩したことをきっかけに、セルフケアの重要性を痛感しました。
Aさんは、まず「週に2回はデイサービスを利用し、その間に必ず自分のための時間を作る」と決めました。この時間には、趣味の絵手紙を描いたり、友人とのランチに出かけたりしています。また、毎朝10分のストレッチを日課とし、就寝前には温かいミルクを飲む習慣を取り入れました。
さらに、週末は同居する息子夫婦に孫の世話を頼み、ご自身はゆっくりと読書をしたり、気分転換に一人で外出したりする時間を確保しています。こうした習慣を通じて、Aさんは心身のバランスを取り戻し、以前よりも穏やかに介護と育児に向き合えるようになったと話しています。
まとめ
介護と孫育てを両立する生活の中で、ご自身の心身の健康を維持することは、決して利己的なことではありません。むしろ、家族全員が笑顔で、健やかに過ごすための土台となる最も大切な要素です。
多忙な日々の中で、自分を大切にする小さな習慣を一つずつ取り入れてみてください。そして、完璧を目指すのではなく、「できる範囲で」「無理なく」続けることを心がけてください。時には周りのサポートを頼り、ご自身の心と体に寄り添うことで、きっと多世代共育の喜びをより深く感じることができるはずです。ご自身の心身が健やかであれば、そのゆとりは家族へと波及し、明るく笑顔の絶えない家庭を築くことにつながるでしょう。